十億のアレ。～吉原いちの花魁～・第44話のあらすじ（ネタバレあり）・考察と感想 ｜シーモア

「シーモア」に掲載されている「十億のアレ。～吉原いちの花魁～」第44話のあらすじ（ネタバレあり）・考察と感想です。

文字のみのあらすじとなっておりますが、ネタバレ注意です！

素のアザミが見てみたい。そう言う辻井にアザミは顔を曇らせ、寄せられた想いを冷たく振り払いました。

その後憔悴しきった様子の辻井が廊下に転がっているのを、三倉が発見します。初対面の時からは想像できないほどの辻井の様子に、驚きを隠せない三倉。辻井を励ましながら、三倉はアザミの初心な姿に、かつての汐織の姿を思い出します。

昔客があしらえないと悩んでいた汐織は三倉と再会した時、かつての面影はなく強かな女に変貌していました。アザミもいつか汐織のようになって安楽に目を付けられるかもしれないと考えた三倉は、アザミの身請け話を辻井に提示して––––––⁉

遊女相手に素の姿が見てみたいとは、辻井もなかなか思い切りましたね。払われた金銭を対価に、夢を見させるのが仕事の遊女。その顔には、それぞれのお客に合わせて作り上げた夢を見させるための仮面をいくつも被っています。それを外して欲しいというのは、いま自分がいる場所を本気で恋愛をしてもいい、学校や会社などの一般的な場所だと思っていると宣言しているのに等しいのではないでしょうか。

あくまでも吉原は疑似恋愛を楽しむ場所。本気でアザミに恋をしている辻井には辛い展開でしたね。アザミが夢を見るなと、冷たい目で怒るのもわかります。ですが、普通の貴方が見てみたいと言われたら、何枚も被った仮面の一番外側の仮面を剥いで見せて、素の自分に見せかけた仮面を見せるくらいのことをしてもよかったですよね。 もしも、アザミがそこまで出来る器用な女だったら、辻井も傷つかなかったのでしょうか？それとも恋をすることさえなかったのでしょうか？

決して安くはない金銭を得ている以上、遊女には一流の器量が求められます。それはそれぞれのお客が望む女性になりきることであり、その仮面を気付かせないことであり、必要以上の恋愛感情を抱かせないことが必要だと思います。それは吉原の多くの遊女たちが持っていますよね。

ですが、アザミはその器量を持ちながらもまだ初心さが抜けていません。だからこそ、辻井から素の姿を見たいと望まれた時に、吉原に夢を見るなと憤ってしまい、冷たく振ってしまいました。それはかつての汐織も同じです。これまで以上の関係を望む客を躱せずに悩んでいた汐織も持っていたアザミと同じ初心な気持ち。しかし汐織はその初心さを忘れ、一級品の遊女の器量を片手に吉原へと戻ってきました。
初心さを忘れた汐織の鋭い切っ先が向くのは吉原、そしてアザミです。でもアザミを守る手段として三倉が辻井に身請けしてくれと頼むのはなんだか違う気がしました。一体、これからどうなってしまうのでしょうか？

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なんだかちょっと悲しい気持ちになってしまいました。たしかに吉原は夢を見る場所ですが、ある線を超えた先にはいくら金を払っても進むことは許されません。その辛さを身をもって知っているアザミとまだ希望を持っている辻井の差に、胸が締め付けられます。どうか、みんなが幸せになる最後を祈るばかりですね。